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シリコンバレーのVCファイナンスの概要

シリコンバレーのVCファイナンスの概要

こんにちは。ジョン佐々木です。

今回もイチゴの写真です。この写真だとバットマンのジョーカーのようにも見えませんか?

犬の写真

ここまで2回、米国での事業展開を考えている日本企業に向けた記事を書きました。今回、そして今後も随時、シリコンバレーのスタートアップへの投資を考えている、日本の投資家に向けた記事も書いていきたいと思います。

シリコンバレーのVCファイナンスの条件の概観から始めましょう。この記事は、シリコンバレーのVCファイナンスの条件を詳細にご説明するものではありませんが、皆さんのシリコンバレーのVCファイナンスに対する理解を促進するフレームワークになれば嬉しく思います。

1. 定款 vs. 契約

VCファイナンスの条件は大きく2つのカテゴリー、即ち(1)定款の条項と(2)契約の条項に分類できます。

米国では、定款に含まれる条項は投資家にとってより強い権利と捉えられます。以前の記事で書いたように米国各州にそれぞれの条件がありますが、一般的には、定款は公的にファイルされた文書であり、定款の条項に違反した行為は無効に(つまり、法的には発生しなかったことに)なります。

他方で、契約条項違反の帰結は(やはり州法ベースで規律されるため州によって異なりますが)、契約違反のクレームであり、行為の無効ではありません。これは一般的には、投資家は金銭的な補償を得られるが、問題となった契約違反行為そのものは差し止められないという意味になります。

2. 定款の条項

定款におけるVCファイナンスの条項は、優先株の条件を反映したものとなります。この点で、かかる条項は株式に「付帯」するもの、つまり株式が譲渡された場合でも適用される条件ということになります。

a. 配当優先  一般的に、優先株主にまず配当してからでないと、普通株主に配当できないことを意味します。配当優先にはいくつかの種類(累積か非累積か、参加型か非参加型かなど)があり、配当の割合は同等額のローンにおける利率を反映したものとするのが一般的です。

b. 優先分配 一般的に、清算の際に優先株主にまず分配してからでないと、普通株主に財産を分配できないことを意味します。優先分配にはいくつかの種類(参加型か非参加型か、上限の有無など)があり、優先分配を発行会社の買収にも適用する(いわゆる「みなし清算」)のが通例となっています。

c. 転換 優先株の普通株への転換に関する条項です。個別的、自主的な転換の権利のほか、一定の事由(例えば、一定持分を有する株主の請求や、いわゆる「適格IPO」など)に基づいて特定の種類(クラス又はシリーズ)の株式全部を一斉転換するような、自動転換の条項もあります。

d. 希薄化防止  「ダウンラウンド」(一定の例外を除く)による希薄化から優先株主を保護する条項です。(「ダウンラウンド」とは、以前のラウンドにおける一株当たり株価を下回る価額でのファイナンスのことです。)いくつかの保護のレベルがあり、それは優先株の普通株に対する転換比率に反映されます。ですが覚えておくべき重要なポイントは、(1)希薄化防止はダウンラウンドにのみ適用されることと、(2)希薄化からの完全な保護(例えばフルラチェットのような)ではないのが通例であるということです。

e. 議決権  定款に含まれる議決権の条項には一般的に2つの種類があります。

(1) 取締役の選任  一定のクラス又はシリーズの株主に一定数の取締役の選任権を与える条項です。例えば、シリーズA優先株の過半数で1名の取締役を選任できるといった内容です。

(2) 拒否権  一定のアクション(定款の変更、発行会社の買収、清算など)を拒否する権利を、一定のクラス又はシリーズの株主に与える条項です。拒否権の要件として典型的なのは、そのクラス又はシリーズの株式の過半数の同意を必要とするものであり、より高い割合を条件とすることもあります。

f. 償還請求権  償還請求権は、一定のクラス又はシリーズの株主に、発行会社に対して株式を買い取ることを請求する権利を与えるものです。この権利は、シリコンバレーのVCファイナンスではあまり一般的なものではありません。またこれは多くの州の会社法で、(日本の自己株取得の規制のように)制限されています。

g. ペイ・トゥ・プレイ  いわゆるペイ・トゥ・プレイ条項は、特定のクラス又はシリーズの株主がダウンラウンド時に新株引受権を行使しない場合に、その保有株式が自動的に当該優先株の弱いバージョンに転換される(典型的には希薄化防止の権利を失う)というものです。投資家により不利なペイ・トゥ・プレイのパターンとしては、ダウンラウンド時に新株引受権を行使しない場合に普通株式に自動転換されるというものもあり得ます。

3. 契約の条項

契約上のVC投資の条項は、当事者間の一定事項についての合意を反映したものとなります。これらの条項は株式自体とは別のものであり、対象となっている株式の譲渡に伴って自動的に移転するものではないことを覚えておくことが重要です。契約上の権利は株式と別に移転しなければなりません。

一般的なシリコンバレーのVCファイナンスにおいては、4つの主要な契約があります。

a. 株式引受契約  この契約は、優先株の引受の諸条件、例えば表明保証(発行会社と投資家双方)やクロージング条件(クロージングの証書、弁護士の意見書の提出等)といった事項を規定する書面です。但し、当事者の継続的な義務(これはVC投資の条項の大部分を占めます。)は、他の契約に規定されます。

b. 投資家の権利に関する契約  この契約では、発行会社の投資家に対する義務が規定されます。

(1) 登録請求権  登録請求権は、市場での株式売却を可能とするために、発行会社に対して米国証券取引委員会に株式を登録するよう請求できる権利を、投資家に認めるものです。これは米国では必要な権利です。なぜなら、一般的なVCファイナンスで発行された株式は、登録(又は登録しなくても良い例外要件に該当)しないと投資家はこれを売却することができません。この登録(又はその例外)要件は、株式公開後にも既存株式に対して適用されることを押さえておくことが重要です。したがって株式公開した後でも、VCファイナンスで取得した株式を売却したければ、登録請求権を有する(又は登録不要の例外要件に該当する)ことが必要です。上場すれば全株式を自由に取引できる日本と比べてみてください。

(2) 情報請求権  発行会社が投資家に対して提供すべき典型的な情報には、年次及び四半期の財務諸表、年間の予算・事業計画があります。調査の権利も情報請求権に含まれることが通例です。

(3) 新株引受権  新株引受権は、将来のファイナンスにおける各既存投資家に対する持株比率に応じた引受権の付与を発行会社に義務づけることによって、投資家の持株比率の維持を可能とするものです。

c. 先買権及び共同売却権に関する契約  この契約は、創業者の投資家に対する(又は株主の他の株主に対する)義務を規定するものです。「株主間契約」と言われることもあります。

(1) 先買権  典型的な先買権においては、投資家は株式の譲渡を希望する創業者から株式を購入する権利を有します(一定の例外があります。)。創業者の株式が見知らぬ第三者に渡ってしまうことを投資家が防ぐことができるように、規定されるものです。

(2) 共同売却権  反対に、共同売却権は、創業者が株式の譲渡を希望する場合に投資家も株式を売却できる権利を定めるものです(先買権と同様、一定の例外があります。)。創業者が発行会社にもはやコミットしないことを決意した(それ は株式の譲渡の事実から示されます。)場合に、投資家にも投資から脱退することができるように、規定されるものです。

d. 議決権に関する契約  この契約は、株主に一定の態様で議決権を行使し、それに付帯する行為をなすことを義務づけるものです。通常この契約には、取消不能な議決権行使の委任(日本では一般的に無効とされますが、米国では有効です。)が含まれるという点は重要です。つまり、この契約に署名したら、あなたの株式について実際にあなたが議決権を行使しなくても、契約に従った議決権の行使が行われ得ることになります。

(1) 取締役の選任  上記のとおり、定款において一定のクラス又はシリーズの株主に一定数の取締役選任権を与えることが可能です。議決権に関する契約では、特定の株主(通常はリード投資家及び創業者)が取締役を指名する権利を有し、他の株主は指名された者に票を投じる義務を負います。

(2) 強制売却権  典型的な強制売却権においては、一定持株比率の投資家が発行会社の売却を決定した場合(更に取締役会の同意、場合によって創業者の同意も条件として)、他の株主は当該売却に賛成票を投じ、関連する行為(株式売却のスキームの場合における、買主への実際の株式の売却行為を含みます。)をなさなければなりません。

以上ご説明したVCファイナンスの仕組みは大部分、法的に強制されていない事項ですので、上記のストラクチャーにはバリエーションがあり得ます。また上記のとおり、本稿は詳細な解説ではないため、VCファイナンスの条項にもバリエーションがある点、ご留意下さい。

今後は、シリコンバレーのVCファイナンスにおける、日本の投資家に有益と思われる個別のイシューにも触れていきたいと思います。

ご質問があれば、jsasaki@jsvlaw.comまでお気軽にご連絡下さい。

【参考和文作成:弁護士 林 賢治】

原本の記事(英語)(除):JSV外国法事務弁護士事務所
和文の記事:AZX法律事務所 AZXのブログの記事: http://www.azx.co.jp/blog/?p=1273