JSV外国法事務弁護士事務所

English

ブログ

米国における契約交渉について知っておくべきこと

Slicon Valleyの標識画像

こんにちは。ジョン佐々木です。

今月はイチゴの誕生日です。13歳です!

犬の写真

今日の話題は米国の契約法です。思い出してください。米国の契約法は州ごとに規律されていますので、私が「米国」と言う場合、実際には50州のどれかのことを指しています。

ともあれ、ここでは米国で契約交渉する際に覚えておくべき点を5つ述べます(それは日本の契約の場合とは異なるかも知れません)。

| 1. なぜ米国の契約書はとても長いか?

多分あなたは、アメリカ人が長い契約書を好きだから、と思っているでしょう。実際そうかも知れませんが、それとは別に法律的な理由があります。それは「口頭証拠排除原則」と言われるものです。

口頭証拠排除原則のもとでは、契約書外の証拠は原則として契約書の解釈上排除されます。これは、契約書の文言はそれ自体で明確、完全であるべきことを意味します。この結果、長い契約書が作成されることになります。

そうした法的制約のない日本と比べてみましょう。日本法の下で契約を締結する当事者は、比較的シンプルな契約書を作成し、外部の証拠(電子メールなど)に基づいて不明確な規定を解釈したり当事者の意思を明確化する余地があります。

口頭証拠排除原則にもいくつかの例外(契約条項の文言自体が曖昧である場合など)がありますが、(1) 契約書の文言を明確にしておくこと、(2) 契約書の規定が完全なものにしておくこと、は非常に重要です。

| 2. 準拠法と管轄の違いは?

「準拠法」は、契約書をどう解釈するかを決める、ある国(米国の場合は州)の法律を意味します。他方、「管轄」は紛争を解決する場所を意味します。

これらは別個の概念です。ですので、例えば日本法準拠で、しかしカリフォルニア州に管轄のある契約書を作成することも可能です。この場合あなたは、紛争解決の場所は準拠法より重要でないから、あなたの「勝ち」だと思うかも知れません。ですがこの場合、カリフォルニア州の裁判官が日本法を学び理解する必要があります。これは現実的なことではありません。こうした経験のない裁判官によって日本法が解釈された場合、日本法を選択したメリットが薄まってしまうことは間違いないと思われます。したがって、一般的には、準拠法と管轄は揃えるのが通常です。

しかしながら、これは白か黒かの問題に帰着します。各当事者とも準拠法と管轄を自国(自州)にしたがります。そしてこの場合、交渉力の強い当事者が勝つことになります。

ひとつの妥協案は、仲裁を利用することです。仲裁手続では、ある仲裁地(例えばシンガポール)を選び、異なる準拠法(例えば日本法)を選ぶことがより容易です。なぜか? 仲裁の場合、当事者が仲裁人を選ぶことができ、仲裁人は仲裁地の人である必要はありません。したがって、日本法に詳しい仲裁人を選びつつ、中立の場所で紛争解決するということが可能になります。一方当事者が準拠法の点で「勝つ」一方で、他方の当事者が紛争解決地で「勝つ」ことが可能です。そして準拠法での「勝ち」が、仲裁人の経験不足によって薄められてしまう可能性が低くなります。

| 3. 「対価(Consideration)」とは?

対価(Consideration)は、米国における全ての契約における要件となる事項です。基本的な意味は、どんな契約も何かと何かの交換関係であるということです。「何か」は、お金のような有形のものか、或いは一定の事項を行う又は行わない約束のような無形のものがあり得ます。言い換えると、米国では片務的な約束は契約として有効でないということです。

対価(Consideration)が要件となっていない、日本の契約と比べてみましょう。日本では、片務的な約束も、(一定の制約はあるものの)契約としては有効になり得ます。

大抵の取引契約では、対価(Consideration)の問題は論点になりません。一方の当事者は製品やサービスの提供を約し、他方の当事者はその製品やサービスに対して金銭を支払います。

しかし、もしその約束の一方が、真の約束ではなかったら? 例えば契約書に、実際に製品やサービスを提供された場合にのみ代金を支払うと記載されていて、提供側の当事者が製品やサービスを提供するかどうか選択できることになっていたらどうでしょう。

日本では、これは有効な契約でしょう。米国では、対価を欠いているという理由で、契約としては有効でないと考えられます。

とにかく、契約の両当事者に拘束力のある義務があるかを確かめるようにしましょう。

| 4. レター・オブ・インテントは拘束力がある?

レター・オブ・インテントは一般的に、重要な条件が決まる前の、当事者の契約締結に向けた意思を示す予備的な文書です。一般的に、レター・オブ・インテントには拘束力がない旨の規定があります。そうすると、レター・オブ・インテントの当事者は拘束力のある契約を締結する義務はない、ということで正しいでしょうか。

正確には、そうではありません

第一に、レター・オブ・インテントで重要な条件が決められていれば、その名称にかかわらずそれは拘束力のある契約となり得ます。

そして、レター・オブ・インテントが拘束力を有しない意図で作成されている場合でも、各当事者は拘束力のある契約を締結するよう努める信義上の義務を負うものと裁判所が判断する可能性があります。これは、拘束力ある契約を締結する義務があるという意味では必ずしもありませんが、かといって締結する努力をせずに立ち去ることもできません。

したがって、真に拘束力のある契約を締結するつもりがない限り、レター・オブ・インテントを締結すべきではありません。

| 5. 法律上の救済とエクイティ上の救済の違いは?

「法律上の」救済は、金銭的な賠償のみを指します。「エクイティ上の」救済は、その他の全てです。損害賠償で誰かを訴えるのは、法律上の救済です。行為の差止めを求めるのは、エクイティ上の救済です。

米国での一般的なルールは、法律上の救済では適正と言えない場合のみ、エクイティ上の救済を受けられるというものです。そして、大抵のケースでは法律上の救済だけで十分とされます。

したがって、典型的な商品売買契約で、売主が義務に違反した場合、金銭的な賠償を求めることはできますが、約束された商品の引渡しを強制すること(「特定履行」として知られているものです。)はできません。

日本と比べていただければ、日本では法律上の救済とエクイティ上の救済という区別がなく、このケースで商品の引渡しを請求することも可能だと思います。

ですので、米国における契約において相手が義務に違反した際に、その実施を強制できると期待しないことです。最終的には金銭的な請求で決着せざるを得ないかも知れません。

このことは、契約違反によるコスト(損害賠償等)が契約義務履行のコストを下回る場合には、米国の契約当事者が日本の契約当事者と比較して契約違反をしやすいということも意味します。

ですので、適切な期待値を設定しましょう。相手方が義務の履行を望まない場合には、その義務自体を強制することはおそらくできません。

* * * * * * * * * * * * * *

上述のとおり、各州で規制が異なるため、適用州法を決めたら実際の規制をきちんと確認して下さい。以上のポイントは米国の一般的な契約法制に準拠したものであり、各州で異なる規制が定められている可能性があります。

ご質問があれば、jsasaki@jsvlaw.comまでお気軽にご連絡下さい。

【参考和文作成:弁護士 林 賢治】

原本の記事(英語)(除):JSV外国法事務弁護士事務所
和文の記事:AZX法律事務所 AZXのブログの記事: http://www.azx.co.jp/blog/?p=1602